Frequency Shifter
BugBrand/Frequency Shifterは、パワフルかつ実験的なアナログプロセッサーです。このスタンドアローン設計は、BugBrandモジュラーのQuadrature Sine および Frequency Shifter Expanderのモジュラーの設計から発展したもので、さらに一般的なスタジオ用途にも自然に組み込めるよう、各種回路や機能を追加してまとめ上げられています。
このユニットは、入力されたオーディオを異世界の音響へとシフトさせます。金属的で鐘鳴りのような響き、トーナルな変化、フェイズ感、ステレオ化、そしてスウッシュするような動きまで自在に生み出すことができます。
まず重要な前提として、Frequency Shifting(FS)は Pitch Shifting(PS)とは異なります。
FS は周波数を一定量だけ加算または減算するリニアな処理であり、周波数を固定値で上下へシフトします。そのため、特に複雑な波形では倍音関係が崩れる傾向があります。例えば、100Hz のサイン波入力を 50Hz の信号でシフトした場合、Down 出力は 50Hz(100Hz − 50Hz)、Up 出力は 150Hz(100Hz + 50Hz)になります。入力信号が 200Hz に変わると、出力は Down が 150Hz、Up が 250Hz になります。
一方、PS は乗算処理であり、倍音関係を維持します。これはデジタルでのみ実現可能です。例えば、Cメジャーの入力を2半音上げると Dメジャーになり、入力が G なら A にシフトします。
Frequency Shifter 内部には、大きく分けて2つの主要回路ブロックがあります。さらに、それらをオーディオライン用途に適切に統合するためのプリアンプ/ミキサー/バッファ回路も搭載されています。ブロックダイアグラムを参照してください。

・メインのオーディオ経路(プリアンプおよびフィードバック回路の後段)は、「ドームフィルター」と呼ばれる特殊なフェイズシフト・ネットワーク、2基のバランスド・モジュレーター(リングモジュレーター)、そして和/差回路によって構成されています。これらは非常に高精度な部品選定とキャリブレーションが必要です。
・ドームフィルターは、全オーディオ帯域をカバーする12ステージのオールパス・ネットワークで、入力信号を ±45° シフトします(つまり 90° の位相差を生成します)。
・バランスド・モジュレーターは、これらの位相シフトされた信号と、Quadrature Sine ジェネレーターからの Sine/Cosine 波形を乗算します。
・モジュレーター出力は加算されて Up シフト出力となり、減算されて Down シフト出力となります。
・Quadrature Sine は、高精度な電圧制御オシレーター(VCO)で、90° 位相差のある純粋なサイン波を出力します。
・動作レンジは、オーディオレート(15Hz ~ 20kHz以上)およびサブオーディオレート(0.2Hz ~ 20Hz。下記NOTE参照)に対応しています。これらの範囲は外部CVによってさらに拡張可能です。
・メインの Rate コントロールは10オクターブ、Fine コントロールは1オクターブをカバーします。
・1V/Oct バナナ入力を装備しており、外部ソース/コントローラーから数オクターブにわたり高精度なピッチトラッキングが可能です。回路は温度補償されており、安定動作します。
・Ext(ernal) Mod 入力(Mod バナナソケット経由)は、Linear FM(ACカップリング)または Exponential(1V/Oct 的動作)へ切り替え可能です。Exp 設定時には極性スイッチも使用できます。
・Int(ernal) Mod コントロールは、Sine 出力を指数サマーへフィードバックし、波形を歪ませます。これにより周波数は下方向へ変化し、非常に実験的なサウンドが得られます。
・2つの波形はバイカラーLEDで表示され、フル振幅(±5V)の波形が Sine/Cosine バナナソケットから出力されます。
NOTE:Sub Audio モードでは、電源投入直後に発振がフル振幅へ立ち上がるまで時間が必要です。まず Rate コントロールを最大にして LED がしっかり点滅する状態まで持っていき、その後希望のレートまで下げてください。一度発振が安定すれば、Audio/Sub レート間を自由に切り替えられます。
・周辺回路には、バランスド・プリアンプ、ミキシング段、出力バッファが含まれています。
・メインオーディオ入力は電子バランス方式の 1/4 インチ端子で、最大20dBまでの可変ゲインを搭載しています。モジュラー信号を扱う場合は、入力ゲインを低め(9時方向程度)に保ってください。ソフトクリッピングも備えており、心地よくオーバードライブさせることが可能です。
・フィードバック入力もバランス仕様の 1/4 インチ端子ですが、可変ゲインはありません。フィードバック経路は External または Internal に切り替え可能で、Down または Up 信号を内部へ戻して豊かな音色変化を生み出します。Dry 信号とフィードバック信号を合成するミキサー段にも追加のソフトリミッティングがあります。
・すべての出力はインピーダンスバランス仕様の 1/4 インチ端子です。Down と Up 出力は sum/diff 段から直接出力され、Mix 出力は Dry、Down、Up をミックスした信号を出力します。
●●●◎●●●◎●●●◎●●●◎●●●◎●●●◎●●●◎●●●◎
では実際にどのようなサウンドになるのでしょうか? また、どのように使えるのでしょうか? 以下はいくつかのアイデアとデモサウンドです。
・内部のバランスド・モジュレーターにより、リングモジュレーターのように金属的で不協和なサウンドになることがよくあります。純粋なサイン波入力では、特に 1V/Oct トラッキングも併用することで、より明確なハーモニック処理が可能です。しかし実際の多くの入力信号は複雑な倍音構造を持っており、それらがリニアな周波数シフトと自然に相互作用します。この特性をぜひクリエイティブに活用してください。特定のチューニングではコードを豊かに厚く響かせ、一方で別のコードではより不協和な響きを生み出します。
・各出力を使ってステレオ空間演出を行うことも可能です。例えば、ドライ信号(Dry のみを上げた Mix 出力)をセンターに配置し、Down 出力と Up 出力を左右へ振ることで、広がりのある立体的な空間感を作れます。
・サブオーディオレートでは、フェイザーに近い効果になります。特に上記のステレオ構成と組み合わせると非常に効果的です。
・内部フィードバックは、非常に強力な厚みと鋭い発振感を加えます。特にサブオーディオレート時には非常に濃密な効果が得られます。
・外部フィードバックでは、例えば Down または Up のダイレクト出力をディレイなどの外部プロセスへ送り、その戻りを External Feedback 入力へ返すことで、さらに実験的な処理が可能になります。
以下のデモサウンドは非常にシンプルな構成で録音されています。モノラル音源をミキサーと AUX センド経由で処理し、Down 出力と Up 出力をそれぞれ別チャンネルへ戻しています。その後、Dry 信号をセンター、Down を左、Up を右へパンしています。試聴にはヘッドホンがおすすめです。
デモ全体を通して音源自体は一定のままにし、Frequency Shifter 側のコントロールのみを変化させています。これには外部キーボードコントローラーによる 1V/Oct トラッキング操作も含まれます。
◎デモトラックは以下のリンクで聴けます
https://bugbrand.bandcamp.com/album/frequency-shifter-demos
製品仕様
入力:モノラル・バランス 1/4 インチ・ジャック、インピーダンス:20kΩ
出力:モノラル・インピーダンスバランス 1/4 インチ・ジャック/インピーダンス:100Ω
CV入力:4mm バナナ端子/インピーダンス:100kΩ
CV出力:4mm バナナ端子/インピーダンス:470Ω
モジュール消費電流:+側:60mA 、−側:55mA
電源:12V DC 300mA、センタープラス、2.1mm コネクター(日本国内用のアダプターを付属しています)
外寸:約 133.4 × 127 × 88.9 mm
*Frequency Shifter は、カスタム設計のアルミニウムケース(Modular ラインをベース)に収納されており、フロントおよびサイドパネルには PCB 素材を採用しています。
*本機は「モジュール」設計のため、BugBrand製のPowered Frame にそのまま組み込むことも可能です。