MOCANTE
Ieaskul F. Mobenthey - Mocante
「斜めに差す、橙の夕日、光はきらめきと木々の陰影をまとい森を横切る。ひとりの赤子が、苔むした古の黄金のおもちゃを手にする」- Wang Wei
Mocante モジュールは、Tocante シリーズのタッチ式インストゥルメントを発展させたクロスオーバー製品です。
本機は、Tocante スケールに基づいたコンデンサの系列によって調律された、24個のオペレーター(フェーズ解析ユニット)からなるオシレーターアレイを備えています。
タッチコントローラーとしては、この独自スケールの調律を表現するコントロール電圧(CV)、ゲート信号、そして内部のフェーズロックループ(PLL)機構に由来する多彩な “witches-tones” や “square-drones” を出力します。
Mocante は、Mobentheyラインの(raftableな)モジュールシリーズの第1弾です。*raftable=筏(いかだ=raft)のような形状にモジュールを浮かべるように配置できる。
全ての回路とフロントパネルが一枚の基板上にまとめられており、完成時の厚さは 3.5mm ジャックやポテンショメーターの深さと同程度、約1センチ以内に収まります。
そのため、Tocante 楽器のような薄型の木製ケースにも格納可能になったのです。
センタープラスの 2.1mm DC ジャック(12V)で電源供給可能です。また、9V バッテリー駆動での駆動も可能です(バッテリースナップが木製ケースにぶら下がっています!)。
ケースから外してEurorack へマウントすることも可能とありますが、電源リボンケーブル端子を増設するためのDIY改造が必要となります。
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◎ ビーツヴィルから出荷される製品には、国内仕様の12V(Tip=+)電源アダプターを同梱して出荷しておりますので、ご安心ください。
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◎ TIPS ◎
この電子楽器は人間の手指で触れることで様々な信号を出力できますが、指が乾いていると反応が少なくなります。人それぞれの皮膚の水分量は大きく異なっているため、指を軽く水につけてから演奏するなど、各人の皮膚の状態に合わせて調整してください。
Mocante には上記のイラストで表されている「3種類のタッチゾーン」があります。
● Triangle Touch(トライアングル・タッチ)
従来型のタッチコントローラーで、CV出力およびゲート出力に対応します。
何も触れていないときは、CV出力は不定の電圧を発し、ゲートはロジック・ロー(約0.4V)になります。
タッチされると、CVはオペレーターの周波数に比例した電圧を出力し、ゲートはハイ(4〜7V程度)になります。
● Squares Touch(スクエア・タッチ)
各オペレーター(=オシレーター回路)内で動作している、超音波帯域を生成する回路群をオーディオ可聴帯域およびLFO周波域へとオクターブシフトします。
タッチすると、Square Drine出力にサウンドが出力されます。
この出力ジャックはバッファされておらず、入力としても機能可能で、外部信号をタッチ回路に挿入することもできます。
● Circular Touch(サーキュラー・タッチ)
最も儚い性質を持つタッチエリアで、Witches Tones出力(Hard / Soft)に影響します。
各オペレーターの超音波信号が他の信号とヘテロダイン(周波数混合)することで、可聴域のホイッスル音やノイズが生成されます。
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Soft witches-tones:ヘテロダイン位相比較によって、より甘くサイン波のような音を生成
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Hard witches-tones・トーン:フェーズロック・パルスによって、ノコギリ波的な音を作り出します
Squares Touch と Circular Touch の間には、小さな「ソフト・モジュレーション・ストリップ」があります。
ここに指で触れることで、各オペレーターの PLL 回路をベンドしたり、歪ませたりすることができます。
「Tuning Basis(チューニング・ベース)」ノブは、各オペレーターの基本周波数を設定します。
範囲は、可聴域から超音波帯、さらにラジオ帯まで広がります。
Triangle Touch の動作に最も適した設定は「ノブ真上(Noon)以降」で、この位置ではおおよそ 20kHz〜200kHz の範囲に達し、下部マニュアル(=下のタッチエリア)で最もスムーズに反応します。上部マニュアルを使いたい場合は、さらに高い周波数に設定してください。
「Tuning Input(チューニング入力)」は、蝶ネクタイのようなマークで示された「アッテヌバーター」に接続されています。
アッテヌバーターの仕組みは次の通りです:
• ノブを12時(Noon)の位置にすると、モジュレーションは無効になります(= 変調なし)
• そこから左右にノブを回すと片方で正電圧、もう一方で負電圧のアッテヌバータとして機能します。このノブで変調をどれくらい、どの方向に適用するかを直感的にコントロールします。
より儚い音要素である「witches tones(ウィッチトーン)」や「square drones(スクエアドローン)」から始めてみてください。それらの音(witches tones や square drones)は、まずミキサーに送って、互いの関係性を耳で確かめてみてください。
次に、他のモジュールと組み合わせて遊んでみましょう。
例)Mocante と Denum を組み合わせたクラシックなパッチ例:
• MocanteのCV出力 → DenumのFM入力へ(周波数変調)
• Mocanteのゲート出力 → DenumのAM入力へ(振幅変調)
こうして、Triangle Touch で操作するモノフォニックなシンセ音は、ドローンや不気味な風のような音色と呼応しながら、Mocanteの声として語りはじめるのです。
◉ Manifesto(マニフェスト)-- 思想と仕組み--
「タッチ・コントローラー」という発想が、Mobenthey の新たなモジュール・ラインを突き動かしている。
その根底にあるのが、“interrogajoke”という概念だ。
*interrogajoke= interrogate(問いただす) + joke(冗談)
この “interrogajoke”という概念は、タッチというインターフェースを問い、同時に「戯れる」ことにフォーカスしている。
- それはピアノなのか?
- それは指にどんな感触を返すのか?
- そして、指はそれをどう感じ取るのか?
多くのタッチデバイスは、高周波の信号を指先に流し、容量(capacitance)を検出する仕組みを使っている。
それはたしかに信号ではあるが、このモジュールはその超音波を「みだらな存在」とみなし、音としては認めてはいない。
──そこにこそ、“interrogajoke” の核心がある。
「どうすれば、容量センシング波に〈音としての存在感〉を与えられるのか?」
この問いへの答えとして、モジュールは古典的なCMOSチップ――4046 フェーズロックループと 4040 リップルカウンターを使用している。これらは Apple の初期コンピューターをはじめ、あらゆるクロックシンセサイザーで使われてきたチップだ。
このモジュールはあえてそれらに限定し、容量検出(cap-sense)の位相を盗み取り、古典的技術と交差させることで、ユニークな Eurorack モジュールを構成している。
タッチエリアは「器官なき身体(body without organs)」と言えるだろう。そこにはノブもスイッチもなく、凡百のラベルも不要だ。
ただセンサーのフィールドに着想を得た、謎めいたルーン(記号)だけがある。
つまりこれは、目標に向けて調整するツマミではなく、ただ指先がさまよう者のための領域である。
魔女の家の戸口にはルー(Rue/香草)が植えられる。それが「witches tones(ウィッチトーン)」と呼ばれるのは、風のようにうなる超音波のヘテロダイン音によるものだ。
吸血鬼が口を開くと、そこには特別な音がある。
その音を翻訳できるのは、昔ながらのテレビだけ。
吸血鬼(その祖先であるコウモリのように)は、ホワイトノイズの口から超音波を吐き出す。それは、相手を魅了し、取り込むための呪文のような音だ。
古いテレビも、同様にフライバックトランスの働きによって超音波を放ち、アンプの非線形性を通して、吸血鬼の音と混ざり合う。
その結果として、「witches tone」によく似た音が発せられ、テレビの前の者を魔法のように魅了するのである。
聴覚の専門家たちは、もはや超音波を忌むべきものとは見なさないだろう。
むしろそれを、力強く、秘められた呪文として使うべきなのだ。
◎ご注意 ◎
本製品はハンドメイドの個性的な電子楽器です。本機は電圧などに対して正確に動作したり精度を重視した製品ではありませんが、体感したことのないような美しいサウンドを奏でられます。また、木製の筐体は個々に風合いの異なるものであり、自然の木材であるため、木目や節、濃淡、凹みや傷などがあります。製品の性質と芸術性をご理解の上でお買い求めくださいませ。